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あの日の小規模テロ行為によって秋と春花は両親を失った。そして今もなお二人はその後遺症を引きずっている。
何年も情報を集めていた秋の目の前に、あの日をよく知るであろう人物が現れた。
秋は無言のままジーナへ近寄ると、胸ぐらを乱暴に掴むと強く引っ張り上げる。
「対テロだと? お前らが防がなかったせいで……」
低く唸るような声で呟くと、怒りを込めた目でジーナを睨む。
今まで向けるべき方向が分からなかったが、その矛先を向ける相手が現れ、本来ならば彼女に向けるべきではない殺意がこみ上がってしまう。
理性がどうにかブレーキを掛けてはいるものの、彼女の返答によっては今までの思いが爆発してしまう。
「なんとか、言ったらどうだ!」
コントロール出来るか出来ないかギリギリの怒りに、アドレナリンなどの興奮物質と急激なストレスにさらされ秋の頭は限界に近い。
割れるような頭痛とめまい。
激しい興奮で呼吸すらままならない。
「私が日本に来たのは、アナタ達兄妹へ経緯を話すため、よ」
「そうか、それはご苦労な事だな。アンタら対テロチームとやらはそれで満足かもしれないが、妹は……春花は声を出せなくなった! 学校にだって行けてない! まだ中学生だぞ!」
秋の興奮が高まるにつれ、ジーナの胸元を掴む両手に力が入り、彼女の気管を徐々に締め付けていく。
「私は組織を辞めた、わ。ここには個人で……秋、苦しい……」
秋の目は怒りに染まり、ジーナは苦しみか悲しみか目尻に涙を浮かべている。
「秋! 何やってるの!」
背後の扉が開くと、秋の声を聞きつけた薫が現れる。
そして直ぐに秋の背を抱くと、ジーナを助けるべく思いっきり引っ張る。
他人であるにも関わらず、ずっと支えてくれた人。薫の声、体温、匂い。
それらに触れて秋の手からスっと力が抜ける。
薫に引っ張られる形で二三歩後ずさると、解放されたジーナは地面に座り込む。
どうすればいいのかと薫は困惑していた。
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