第四章「剣舞銃奏」

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 霞がかった意識の中、ぼんやりとだがジーナやセンセーの会話が耳に入る。  テロ事件そのものの被害者は自分達だが、ジーナもまたあの日を境に人生を狂わされた一人なのだと実感した。  だからと言って彼女を許せるかと問われれば、まだそれは難しい。  春花は今だに病院から出られず、自分自身も囚われている。でも、だからと言ってその怒りや憎しみをジーナに向けるのは筋違いであり、漆黒の感情に身を任せた先ほどの振る舞いを秋は自戒した。 「俺の事はいいです。それより今はあの連中を探しましょう」 「全く、君はつくづく休む事をしらないな」  センセーは呆れながらも秋の体を起こすのを手伝うと、机に置かれた水をコップに注ぐと差し出した。 「それで、あの連中って何?」  本当なら心配するので薫には何も言いたくなかったのだが、向こうが実力行使してきたのだから今は騙せても、この先隠しきるのは難しくなるだろう。 「今日、二回銃撃された」 「「は!?」」  センセーと薫の驚いた言葉が重なる。 「君は、撃たれたのか?」  また。という言葉をセンセーは何とか飲み込む。つい最近も銃弾を切っただか避けただかで銃創を手当したばかりなのだが、こうも続くと傷が治るよりも死ぬほうが早いのではないかと思えてしまう。 「当たりませんでしたけど」  正確には射線を避けたのだが、当たらなかった事実さえあれば過程はあまり関係ない。  そんな秋の答えにジーナは微かに眉をひそめた。  銃弾を避けるというのは可能か不可能か言えば可能だが、それはあくまで引き金を引くまでの予備動作を見切った上で更に単発という条件が加わるのだが、秋の避けた二発はどれも単発ながら、秋自身は射手と正対していない。  つまり指先や筋肉、目の動きなどを読まずして避けたのだ。  一発ならまだ運がよかったで済まされるが、女神は二度も助けない。  それは様々な現場を体験したジーナだから分かる部分である。  そもそも銃を持った相手に素手で挑む事が異常なのだ。  そんな存在はスティーブン・セガールだけで十分である。
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