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「は?」
文左衛門が顔を上げ、玉雪の顔を凝視する。
「私、旦那さんのこと好きです」
自分の一間先に立つ文左衛門に玉雪は歩みより、胸に手を置いた。
「二回も言わさんとって下さい、恥ずかしいんですから……一緒にならせてください。好きです」
そのまま額を胸に当てると頭上で文左衛門の心臓が少し早いのが分かった。
「仕事、大変やぞ」
憮然としたような文左衛門の声。
「えぇですよ、お手伝いします」
笑う玉雪。
「あんまりかまってやれんかもしれんぞ」
文左衛門の右手が玉雪の左手に伸びる。
「えぇですよ、私が勝手にかまいますから」
玉雪は握られた左手に力を入れた。
「それに……」
「なんや、旦那さんしつこいなぁ。私がえぇて言うとるのに」
「…………」
文字で口説いて
気持ちで惚れて
姿に見とれて
身に溺れ――――
一つに絡めば花が咲く。
腕を組んで歩く二人を後ろ姿を、見返り柳だけが見ていた。
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