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くねくねと蛇のように曲がりくねった山道をハンドルを捌き車を走らせる。
ガードレールの下は断崖絶壁だ。
深い角度で差し込む正午を過ぎた秋の日差しは、色づいた山肌を日の当たる斜面と当たらない斜面にくっきりと二分する。
まるでこの世の光と闇を分け隔てるように。
ただでさえ少ない貴重な休みに、何故一人でぶらっと山寺を散策してみようという気になったのか!?
何か目に見えない糸に手繰り寄せられたのかもしれない。
市街地から走り続けること約40分。
私は崖を削り取って作られた駐車場へと車を滑り込ませた。
この寺は、国定公園に指定された緑豊かな山林の一画に位置し、古くから信仰を集めた聖地として観光の名所となっている。
紅葉のこの時期は大型の観光バスでやって来た、カメラを抱えた団体でさぞ賑わっているだろうと思っていたが、予想に反して平日の人通りは少ない。
カッと目を見開き、参拝者が俗世で犯した悪行を責め立てるように恐ろしい形相で睨み下ろす二体の仁王像の並ぶ山門を潜る。
夏場は極楽浄土に迷い込んだかと錯覚に陥るぐらい蓮の花が咲き誇っている参道の入口の大池も、秋深まった今は寒々と噴水が吹き上げているだけである。外掘りに巡らされた水路をまたぎ戦国時代の城に入るために架けられたような、中央が丸く盛り上がった朱塗りの橋を渡る。
吹き上げられた噴水の水は風に煽られ、靄のように水面を流れてゆく。
まるで天界に召され、足の下に流れる雲を眺めながら渡っているようである。
橋を渡って現世を離れた気分になると、参道は標高400メートルの山頂へと伸びる。
ちょっとしたハイキングコースのような道程だ。
木々の葉は思い思いに色をつけて頭上に拡がる。
苔むした石灯篭や風雨に曝されて所々欠けた地蔵が左右に伸びる石段を、一歩一歩踏み締めて登る。
なかには首の取れてない地蔵もある。
それにしても道中、リュックサックを背負って杖をついた老夫婦とすれ違ったきりで、狐かタヌキにつままれたようにほかの参拝者と出会わない。
山の中腹まで差し掛かった時、石段の先に視界が開ける。
水かけ観音を奉った祠のある、小じんまりと平らに整地された広場に辿り着く。
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