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「きれい」
雛は独り言の様に呟いた。あの日と全く同じ口調で。
雛と付き合い始めて分かったが、彼女のこれは一種の癖だという事だ。
綺麗なら綺麗。美味しいなら美味しい。逆も然りで嫌いなら嫌い。不味いなら不味い。
思った事を何のフィルターも通さずに外に送り出す。要は素直なんだと思う。
この癖のせいで苦労する事も多々あるが、僕は素直すぎる雛の言葉が大好きであり羨ましくもあった。
何枚ものフィルターを通して言葉を送り出す僕にはきっと出来ないだろうから。
その後僕達は高校を振り返り、色々な思い出を共有しあった。
僕達が出会う前の二人を確認しあうように。
一年のバレンタインに先輩に告白して振られてしまった事。
修学旅行に寝坊してこっぴどく怒られた事。
瞳ちゃんとは2年生から仲良くなった事。
クラブの事。
美術の授業で学年で1人だけ欠点になった事。
尽きる事ない思い出に蓋をして色褪せない様に保管しながら。
雛は一通り話して満足したのか桜越しにいつの間にか夕焼けに染まった空を見上げだ。
腰掛けていたブランコからぴょんっと飛び降り、ピンクの絨毯に足をつけこちらを見た。
「これまでもこれからも大好きだよ」
突然の告白に、僕は言葉に出来ない照れ臭い感情を抱きながら彼女を見つめた。
そんな僕を見て柔らかに笑う雛は風景画の中に入り込んだ様なこの場所ですら一番綺麗な“色”をしていた。
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