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北郷一刀は叱られていた。
太守であり、北郷軍の総大将である彼が怒られるなど、滅多なことでは――あるが、今日はまたいつにも増してのことだ。
城下での出来事からいくらか経ったが、特に目立った騒動はなく、一刀はいつも通りの毎日過ごしていた。
強いてあげるとすれば、星に「主、酒でもいかがか。何、断るですか?そうですか、ならば変装のことを皆に――いや、主。私が悪かった。だから華蝶仮面のことは……」と脅されたことぐらいだが、そんな卑怯な手には屈せず追い返した。
さて、前述した通りそれは先日のことである。今の彼はと言うと。
「確かに最近は戦が終わったばかりで政務も多く大変ですが、その分私や紫苑さんも補佐して――」
これもまた前述した通り、怒られていた。
もっとも、叱られる相手が相手なだけに、怒るというよりはお説教と言う方が良いかもしれない。
理論整然と、数学的に順だって話し説いていく様は、やはりその閨秀さを感じさせる。
普段はあまり強く出ることが出来ない彼女が、淡々と言葉を継いでいく。前回あの忙しさの中抜け出されたのは、流石に苛立ったのかもしれない。
それを聞く一刀は、床で正座という彼にとってノスタルジーを感じさせる体勢なのだが、この状況下ではそんなことすら思えないだろう。寧ろ、感情的に怒られた方が楽だったかもしれない。
少し前のことになる。
その時彼は、珍しくも政務に勤しんでいた。
机の上には大量の書簡が積まれており、机上いっぱいに埋め尽くしている。唯一開いたスペースといえば、一刀の使う筆記用具の置き場所くらいだろう。
かれこれ数時間はこの状態であり、積まれたそれを減らしてもまた新しいものを持って来られるのだ。
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