第一章

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星は酔っていた。 酒にでも、自分にでもない。華蝶仮面にだ。 「そして華蝶仮面は華麗にして優美、あの神出鬼没さがそれをまた惹きたてて――」 一刀で出会ってから、星はかれこれ三十分程喋りっぱなしだ。その間何を話してたかといえば、言わずもがなメンマ、もとい華蝶仮面についてだ。 高潔、可憐、羞花閉月。思いつく限りの美麗文句を垂れ流しては、一刀をげんなりとさせている。 「てか、これじゃあただのナルシストだろ……」 星=華蝶仮面であるのは秘密だが、それを知る一刀にとって華蝶仮面を褒める星はナルシーとしか言い様がない。 「聞いておられるか、主?」 もう良いよ、と言いたかったが、言えずに頷いてしまう一刀。それに満足したのか、大きく頷く星。しかし話すことは止め様とせず、さらに増長し続けた。 (もう五回ぐらい同じこと話してる) 一刀の思いの通り、星は既に同じ話を五回している。恐らくはもうすぐ、六周目に入ることだろう。 始めの方こそそれなりに相槌を打っていたものの、もうそんな気も起きず、ただ耳に入ってくる声そのまま外に流すようにした。 そしてとうとう六周目に突入したが、星は一向に話し終える気配がなかった。いい加減止めてくれ、とこっそり両手を組み祈ってしまうぐらい、一刀はキている。 その祈りが通じたのか、漸く星は話すのを止めることになった。 「星」 唐突に名を呼ばれたので、話しを止めやおら声のした方へと顔を向けた。 「おや、愛紗ではないか。どうした、警邏か?」 いつもの様に話掛ける星の横で、一刀は大きく息を吐いていた。話が終わって残念だなんてことは小指の先程も思っていない。安堵感から吐き出した息だ。 その時一刀には、やって来た愛紗が天使に見えた。自分も天使の様なものだということを忘れて。
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