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星は酔っていた。
酒にでも、自分にでもない。華蝶仮面にだ。
「そして華蝶仮面は華麗にして優美、あの神出鬼没さがそれをまた惹きたてて――」
一刀で出会ってから、星はかれこれ三十分程喋りっぱなしだ。その間何を話してたかといえば、言わずもがなメンマ、もとい華蝶仮面についてだ。
高潔、可憐、羞花閉月。思いつく限りの美麗文句を垂れ流しては、一刀をげんなりとさせている。
「てか、これじゃあただのナルシストだろ……」
星=華蝶仮面であるのは秘密だが、それを知る一刀にとって華蝶仮面を褒める星はナルシーとしか言い様がない。
「聞いておられるか、主?」
もう良いよ、と言いたかったが、言えずに頷いてしまう一刀。それに満足したのか、大きく頷く星。しかし話すことは止め様とせず、さらに増長し続けた。
(もう五回ぐらい同じこと話してる)
一刀の思いの通り、星は既に同じ話を五回している。恐らくはもうすぐ、六周目に入ることだろう。
始めの方こそそれなりに相槌を打っていたものの、もうそんな気も起きず、ただ耳に入ってくる声そのまま外に流すようにした。
そしてとうとう六周目に突入したが、星は一向に話し終える気配がなかった。いい加減止めてくれ、とこっそり両手を組み祈ってしまうぐらい、一刀はキている。
その祈りが通じたのか、漸く星は話すのを止めることになった。
「星」
唐突に名を呼ばれたので、話しを止めやおら声のした方へと顔を向けた。
「おや、愛紗ではないか。どうした、警邏か?」
いつもの様に話掛ける星の横で、一刀は大きく息を吐いていた。話が終わって残念だなんてことは小指の先程も思っていない。安堵感から吐き出した息だ。
その時一刀には、やって来た愛紗が天使に見えた。自分も天使の様なものだということを忘れて。
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