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愛紗は戸惑っていた。
部屋の中を無闇に歩き回る愛紗。時折立ち止まってはしゃがみ込み、立ち上がってはまた歩き出す。一心不乱……というより、寧ろ煩悩からきている気もするが、ともかくひたすらに歩き回る彼女の様子は、とても異様でしかない。
愛紗は内的状況が外的状況に現れ易い。要するに、思ったことが顔に出るタイプだ。今は顔どころか体全体で表現しているところを見ると、かなり狼狽しているのだろう。
――私は一体どうしたというのだ。ご主人様を捜しに行ったというのに、碌に捜さず戻って来てしまったではないか。いいや、どうしたなどと自問せずとも分かっている。原因は、あれだ。
昼頃、ご主人様を締め上げる……ではなかった、政務に戻らせるべく町で捜索をした時。中庭に居られるのでは、とも考えたのだが、最近のご主人様はどうやら城下へ行かれるのがお好きな様で、今回もまたそうであろうと判断した。
どうせなら、私も誘ってくれれば良いのに……。い、いや、そんな場合ではない。早く見つけることが優先なのだったのだから。
一応ではあるが、中庭の方も回ってみたものの案の定ご主人様は居られなかった。そうして私は、町へと駆けた。
それから少しして、運よく星を見つけることが出来た。星もよく城下へと出かけているようなので、ご主人様のいそうな場所を聞けるかと思い私は声を掛けた。
二つ三つ言葉を交わしている横で、素早く動く何か。言うまでもない、このようなことをするのはご主人様しかいない。星の陰に隠れているつもりだろうが、体格に差があるのではみ出ている。
私は咄嗟に服の端を掴み、こちらへと手繰り寄せる。そう、ここまでは良かった。ここから不測であった。
ご主人様かと思い引き寄せた人は、別人だったのだ。
その時私は自分でも分かる程に慌てていた。人違いとはいえ、守るべく民に暴力を加えてしまったのだから。
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