真夜中の不審者

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    カンカンカンカン――  午前0時を過ぎた住宅街、ボロアパートの階段はよく響く。  宮浦燎(ミヤウラ カガリ)は疲れた体を引きずりながら、高いヒールのブーツで錆びた階段を上がっていった。  左にアパート、右にはそう高くないブロック塀を挟んで線路。  背中にはギターのソフトケース、俯き気味の視界に頭上の夜空は見えない。 「はぁ・・・」  階段をため息混じりに昇り終えると、左手で手摺りを掴み、Uターンするように通路へ移る。  部屋は階段から一番遠い。 「くだらねぇ・・・」  口から零れた言葉は、愚痴というより自虐に聞こえた。  だが、近くの街灯の明かりだけが頼りの通路には、呟きを聞き取る者などいない。   チャリン・・・ガチャッ――  右肩に掛けていた鞄から青いキーホルダーのついた鍵を取り出すと、利き手ではない左手で器用に解錠し扉を開ける。 「ただいま・・・」  誰もいないと分かっていながらそう言うと、燎は部屋の電気を点けた。  部屋の中は今朝出て行った時のまま、家具の少ないただの古びた和室・・・のはずだった。    
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