真夜中の不審者

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    タタンタタンッ、タタンタタンッ――  タイミングよく通過した最終電車によって、燎の絶叫は隣近所からはかき消された。隣も運よく空き家のため、聞き取れる者はいない。  目の前の人物以外は・・・。 「せやから、俺がプライベートでスカート履くんはファッションで、オカマやないっていつも言うとるやん」  ふてくされたように口を尖らせると、先ほどよりも1オクターブ低い――と言っても声変わりしたばかりの少年のような声で言った。 「黙れ、エセ関西弁!」  そんな様子を見ようともせず背を向けて玄関に腰掛けた燎は、振り向きざまに脱いだばかりのブーツを投げつける。 「危なっ。それは作者が生まれも育ちも東京やから・・・」 「ウルサイ! 言い訳は地の文でしろ!!」  ・・・・・・ゴメンナサイ(土下座) 「ほんまの事やからって、怒鳴ったりしたら可哀相やん。  なぁ。そないな顔してたら、せっかくの美人さんが台なしやで?」 「別にどうでもいい・・・」  ニカッと笑ってみせる彼の手からブーツを奪い取ると、燎は乱暴に靴箱に投げ入れた。 「なんやねん、さっきから。  勝手に家上がったのがアカンかったなら謝るわ。せやけど、仕事で東京行くって昨日メールしたやん。合い鍵くれたのも自分やし・・・。なしてそんな怒ってん?」 「呆れてんだよ。こんなのが、デビューシングル初登場1位の大型新人アイドルなんて、世の中終わってる」  逆ギレ気味の彼に、燎は玄関のチェーンをかけながらそう言うと、置いたままだったソフトケースをクローゼットの横に立て掛けた。    
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