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そう。
本来なら、彼は雲の上であるべき存在。
彼の名は手塚日成(テヅカ ヒナリ)。
先月メジャーデビューしたばかりのアイドルグループ『Blood boys』のメンバーだ。
年齢は燎より1つ上の21歳。
身長は女性の平均より少し高い程度。
年上のお姉さん達にモテそうな、カワイイ系の美青年である。
「そんな嫌味みたいに言わんといて。
ウチの事務所が大手やからって、みんな『1位で当然』って反応しかしてくれへんし。バラエティーじゃ、関西人ってだけで扱い芸人並なんやから」
日成は耳を塞ぎながらそう叫ぶと、ギャグマンガのようにゴロゴロと部屋の中を転がっていく。
「芸人並だろうが何だろうか、芸能人には変わりねえだろ」
コートをクローゼットにしまいながら燎が素っ気なく言い放つと、突然背を向けて丸まり、爪でいじいじと畳を引っかき始める。
「・・・ったく、いつまでそんな格好してんだよ。いい加減着替えろ」
「んー・・・」
部屋の真ん中を横切りながら声をかけると、落ち込んでいるのか気の無い返事が返ってきた。
「仕事でこっち来てるって事は、どうせいつものホテル居ることになってんだろ?」
「うん・・・」
「さっき終電行っちまったから、通りまで出てタクシー捕まえねえと帰れねえぞ」
「せやなー・・・」
押し入れ探っていた燎が、日成の返事が『気の無い』ではなく『眠そうな』である事に気付くのに、そう時間はかからなかった。
「・・・チッ」
鋭く舌打ちした燎はバスタオルと着替えを抱えて日成の背後に立つと、
ゲシッ――
「・・・もー、なにぃ?」
肩を蹴飛ばされ目をこすりながら振り向いた彼に、キッパリと言い放った。
「泊めねえからな」
「えー、何で?!
・・・ええやん、自分もあと寝るだけやろ?」
思わず声を上げた日成は慌てて両手で自分の口を塞ぐと、すがるような目で燎を見上げる。
「8時間労働してそのまま寝るワケねえだろ。これからシャワー、その後夕飯」
「相変わらず、不健康な生活やなぁ」
日成は茶化すようにそう言って俯せに寝転がると、近くにあったリモコンでテレビを点けた。
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