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予感は、してた。
あんまりうれしい予感ではないけれど。
でも、けして『悪いもの』ではない、予感―
カラン…
ぼやけた金属の鳴る音が、店内に響く。
営業用の、だけど作り物ではない笑顔を貼りつけて、振り返る。
「いらっしゃ…」
たった三文字が言えず、笑顔がはがれて固まった。
扉を開けて入ってきた一人の男性と視線が絡まる。
「あ…―ミズキ」
向こうも同様で、戸惑ったような表情。
名前を呼ばれてはっとする。
「久しぶり…一人?」
「あぁ」
「こちらへどうぞ。」
仕事中だと思い出し、『お客さま』をお通しする。
案内した席についたのを確認し、手早くおしぼり・メニュー・お冷やの三点セットをトレンチに乗せ、彼の元に向かう。
「五年ぶりくらいか?元気そうだな」
動揺が冷めたようで、変わらない笑顔が問う。
カウンターの中にいるマスターの機嫌をはかりつつ、そのテーブルの横に立ち止まる。
「タクマこそ、元気そうだね」
大好きだった、子供のような笑顔。
懐かしさと後悔の入り混ざる、複雑な感情が心に広がっていく。
オーダーシートにアイスコーヒーとサンドイッチのチェックをしてストックに戻り、仕事を続ける。
あれから…
もう、五年かぁ…
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