夢の始まり

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「そんなんこすると、腫れるで?」 そう言ってみたものの、相手の行動は止まらない。 目がかゆいわけではないようで、理由はやはり。 「…なんか、変や」 変わらず目をこすりながら、やすは言う。 「なんでこんな眠いんやろ…」 コーヒーも飲んだし。 休憩もしたし。 気を抜いているわけではないというのに。 「……」 かぁゆは手を止めないまま、様子を見やる。 頭をふらふら傾けている仕草は、まるで、寝るのをがまんしている子供のようで。 「…少し寝たら?」 「いや」 わがままなこっちゃ。 仕事熱心というのか。 「疲れてんとちゃう?」 「うーむ…」 今にも机に頭をぶつけそうで、少しはらはらしながら見つめる。 と。 「疲れっちゅーか…」 「うん?」 「最近、変な夢見んねん」 「夢?」 「うん」 ふぁ、とやすはあくびをした。 少し涙目になりながら続ける。 「ていうても、覚えてへんけどな」 「ふうん」 「何回も何回も同じ夢」 「…覚えてへんのに、わかんの?」 「なんとなくな」 睡魔と戦いながらも、彼は仕事をしようと手を動かす。 が、ペンはみみずのような線を描くばかり。 「夢のなかで、声がすんねん」 「?」 「なんて言ってんだっけ…」 えーと、と考える。 半目になる彼をいささか放っておけなくなり、かぁゆは手を動かすのをやめた。
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