水と油

12/16
前へ
/842ページ
次へ
「ほぅ…分かってるじゃねぇか」 不敵に笑いながら、近づいてくる。 「やだッ!こないでよ!」 後ずさりしたが、狭い部屋ゆえ、すぐに冷たい壁に突き当たる。 うっすら光る涙の跡に気付いた土方は、ほんの一瞬戸惑った。 だが表情には毛ほども出さず、相変わらず冷めた目を向けて厳しく言い渡す。 「お前の素性がハッキリしないうちは、帰すわけにはいかねぇんだよ」 「…こに?」 「あん?」 「どこに帰るの?どうやって…?わたしだって、こんな所にいたくない…」 また、鼻の奥がツンとしてきた。 うるうると無遠慮にこみ上げてくる涙を、必死に押し戻す。 この人の前で、みっともない泣きっ面をさらすのだけは、ご免だ。
/842ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9367人が本棚に入れています
本棚に追加