渡る世間に鬼はない?

2/8
前へ
/842ページ
次へ
晴れてその存在を認められた眞子は、翌朝、まだ夜も明けきらないうちから、さっそく朝食準備に追われる。 厨房では、先輩女中の菊乃が、てんてこ舞い。 「菊乃さん、お味噌汁できました!」 「じゃ、干物焼いてちょうだいな」 「はい~っ!」 このふたり、今朝顔を合わせたばかりなのに、なぜか姉妹のように息はぴったり。 与えられた絣の着物姿も、なかなか様になっている。 どっからどう見ても、水戸〇門に出てくる、おとっつぁん思いの町娘。 広間に隊士たちが集まってくる様子を眺めながら… (なんとゆ~騒がしさ!そして、まだ朝だというのに、この汗臭さ!) こんな時は、自分のこの嗅覚が恨めしい。 (こういうのをむさ苦しいって言うんだろーなぁ…) ボーッとそんなことを考えていると、向こうから土方がやってきた。 脳がけたたましく警報を鳴らし、眞子は素早く身構える。 通りすぎざま、わざわざ前かがみで彼女を覗きこみ、 「馬鹿女!菊乃の足引っ張るなよ!」 いたずらっぽい、少年じみた表情をその目に宿らせて、小馬鹿にするように言った。 「何をぉ~ッ?」 眞子はキッとふり返って、悠然と遠ざかる背中に中指を立てた。
/842ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9367人が本棚に入れています
本棚に追加