渡る世間に鬼はない?

6/8
9363人が本棚に入れています
本棚に追加
/842ページ
目が回るほど慌ただしい1日が終わった。 「ふぁ…」 うさぎ小屋――この女中に与えられた納戸の別名――で仰向けになり、ぐ~っと身体を伸ばす。 こんなに働いたのは、生まれて初めて。 今日は仕事を覚えるのに必死で、あれこれ考えずに済んだ。 …けど、これから、どぅ…なって…どぅ…やって……… などと思いつつ、2分後には、深い寝息を立てていた。 巡察を終え、井戸端で体を拭ってから自室に戻った総司。 足どりは軽やかだ。 「眞子!甘いもの好きぃ?」 隣の部屋に声をかけるが、返事がない。 そっと襖を開けると… 「………」 いつの間にやら体勢は横向きに変わり、無防備この上ない眞子の寝姿が、総司の視線を奪う。 着物の裾からは、太ももがあらわになり、白いうなじが悩ましい。 う~ん… 総司は、痒くもない頭をポリポリ掻いて、何かを考えていたが、すっと近づくと、その唇に唇をそっとあてた。 ――ん。温かい。 何か、とても安心する。 忘れかけていた感覚。 心地よい浮遊感の中をさ迷っていた眞子が、静かに目を開けた。 「はっ…寝ちゃった?わたし…」 起きあがり、着物を正して襖を開ける。 「あ、目が覚めた?疲れたんでしょ。無理は禁物だよ」 刀の手入れをしていた総司が一瞬だけ手を止めて、柔らかい笑みをたたえて言った。
/842ページ

最初のコメントを投稿しよう!