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「泣かないで、兄や」
天使の口から懐かしい呼び名が飛びだす。
はっとして顔を上げると目の前には天使が涙目でこちらを見つめていた。
「な…んで…その呼び方を…どこで…」
「ごめん…ごめんね兄や。ずっと苦しめてきたね。ごめんね。」
泣きそうな声であやまり続ける天使を見て俺は混乱していた。
「どういう…こと…なんだ。」
天使はベッドからするりと下りるとそのなめらかな肢体を惜し気もなく俺の目の前に晒した。
あまりにも白いその身体を見て、あれだけ抱いた後だというのに何故か直視する事が出来ず思わず目を逸らした。
「な、何を―」
「お願い。見て。」
その声の真剣さに気圧されて視線を彼女にもどす。
声が出なかった。
窓を向いている彼女の背中には不釣り合いな大きな鉤裂きの傷跡が生々しく残っていた。
そういえば行為の最中背中に触れる事はなかった。
見た目に完治しているとはいえ、それはあまりにも…
「ひどい…」
気付けば口にしていた。
「っごめん…」
「いいの。この傷もあなたとおなじ小さい時に出来たものなの。大好きな人を追いかけて自分の不注意でケガをした。結果大好きなその人まで巻き添えにして…これはその罰。」
「…そんな…まさか―――!!」
「…そう。あの日私はあのままずっと下流まで流されて、でも奇跡的に生きていたの!!ある人が拾って介抱してくれた。」
「だったら…だったらどうして今まで連絡をしてこなかったんだ!?」
「始めのうち記憶がなかったの。自分に残されていたのは着ていた服と左手に握られていた飴玉だけだった。徐々に記憶は戻っていったけどその時にはもうみんなの中で私は死んでいたの。帰れなかった。」
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