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ブランコの鎖を持つ細い手がやけにまぶしく光る。
「私は神から遣わされた者です。あなたの望む物を与えるように仰せつかっております。さぁ、なにがお望みですか?」
声の主は見知らぬ女だった。
男はあんぐりと口を開けたまましばらく固まっている。
言われた言葉の意味をやっと理解すると慌ててブランコから飛びのいた。
足がもつれて尻餅をついた格好で数メートル離れた女と対峙する。
女はゆっくりと一歩踏み出した。
街灯の下に全身が現れる。
時刻は真夜中。
月明かりもない真っ暗な公園に他に人の気配はない。
「て…天使?」
男は思わずつぶやくとはっと口をおさえた。
「な…何言ってんだ俺」
女はクスっと笑ってから「なんと呼んでいただいてもかまいません」と微笑んだ。
夜風に女の白く長い髪がなびく。
白い七分のワンピースに瞳だけが黒く濡れたように光っている。
「…ヤバイな。さすがに飲み過ぎた。こんな幻覚をみるなんて―――。」
「幻覚ではありません。私は今ここに存在しています。このとおり。」
いつのまに近づいていたのか、女は男の手をとると自分の頬に持っていく。
男の手には確かに女のなめらかな肌とそのあたたかさがかんじられた。
しばしその感触に浸りながら、男は唯一黒い瞳を見つめ尋ねた。
「本当になんでも望みを叶えてくれるのか?」
男は尋ねながら自分の言葉に驚いた。
本気にするのかと。
女は男の迷いを見逃さない。
押し当てる手に力を入れ、更に強く見つめると女はさっきと同じ言葉を口にして微笑む。
「さぁ、何をお望みですか?」
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