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どことも知れない漆黒の密室に、幾つものディスプレイが浮かび上がっていた。
その部屋には見たこともない形状の装置が所狭しと置いてあり、ディスプレイから発せられる青白い光を受けて不気味に光っていた。
その光源でもある画面上には奇怪な記号の分がせわしなく動き、流れていく。
「ん、んん~……」
小刻みに点滅を続ける光を全身に浴びながら、丈の長い白衣を身に付けた女がその前に座っていた。ゆるみきった笑顔とは対照的に、両手はキーボードのようなものを――とはいえ、優に五倍の大きさはあった――目まぐるしい速度でたたき続けていた。そのスピードはもはや人間の限界を超えていて、まるでキーボードの上を肌色の雲が漂っているようだった。
「どうだね、調子は?」
すると彼女以外誰もいないはずの部屋に、五十代くらいの胸に響くような深みを持った男の声が聞こえてきた。
しかし、彼女の耳には届かなかったのか、一心不乱に指を動かし続ける。
その時、彼女から少し離れた床の一部がさらに昏く染まり始めた。彼女の後方に生じたそれは、直径八十センチほどで、どこまでも暗いマンホールのようだった。闇よりも黒く、それでいてインクのようにテカリを持っていた。
「ふ……研究のこととなると周りが見えなくなるんだったな」
男の声はそこから聞こえてくるようだった。
「ジュディー」
「……」
「ジュディー!」
「……」
「ジュディー・ローレック!!」
「あん、うっさいわねぇ~。聞こえてるわよ」
手を休めることなく、ジュディーと呼ばれた女が不機嫌そうに答えた。
それと同時に漆黒のマンホールに変化が起きた。泉に水がわき出るように、中心から漆黒の物質が盛り上がり始めたのだ。
「そうか。どうだね、調子は?」
闇が膨れ上がるのと呼応して、床にできていたマンホールが小さくなっていく。そして、それが完全になくなったとき、すぐ上には人型の漆黒の影が浮いていた。さらに変形を続け、次第に人間の形を取り始めた。
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