動き始める歯車

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 さらに離れた所には、離れ小島(ここに住む者は図書館島と呼ぶが、ここに来て日の浅いアーニャはその名称を知らない)が見えていた。 「ん~っ、気持ちいい~!」  アーニャは両手を高く天に伸ばしたかと思うと、急に失速し、ゆっくりと傾いてゆき、自由落下し始めた。それは次第に加速してゆき、それに呼応して、模型のようだった家々がどんどん大きくなってゆく。  そして、地面に激突する寸での所で進行方向を九十度変えた。二階くらいの高さを限界以上の高速で駆け抜けていく。その下を百を越える学生が登校しているが、すぐ上を飛行する少女に気づく者はいなかった。 「町の造りもなかなかねっ!まっ、ロンドンやウェールズには負けるけど」  落下によりついたスピードが落ち、自転車くらいの速度になると、今度は杖に足を乗せ、立ち上がった。 「よっ、ほっ」  スノーボードを操るような感じで、軽く左右に振りながら、 「でも箒レースには最適ね。ここでは開催されてないのかしら……」  ふと下を走る人たちが目に入り、 「まぁ一般人が多いから無理か……少なくとも私くらい強力な認識阻害魔法が使えないと……加速!」  アーニャは軽く前傾姿勢になると、唐突に加速を始めた。家々が流れるように過ぎ去っていく中、 「ん?」  ただ何となく目に入った狭い道の前で止まった。そこは道幅は大通りの半分くらいで、すぐに左に大きく曲がっていて奥まで様子が窺えなかった。さらに看板や街頭が多数設置され、この道を飛行するにはいささか不向きであった。しかし、 「……なんか町のコースによくある関門に似てるわね」  くるりと向きを変え、その狭い道の方を向く。 「う~ん……ネギはどうせ授業があるし、暇つぶしに……」  両足を軽く広げ、トンと箒の上に座る。 「今日は一日飛ぼうっと!」  そして、勢いよくその路地へと突っ込んでいった。
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