81人が本棚に入れています
本棚に追加
「さぁその本を渡せ」
「何のことだ?」
「とぼけるな!『真実の紙片』を渡せと言ってるんだ!」
黒服の態度は依然と強く、気圧されそうなぐらいである。
「この世界に本があることはわかっていたが、どの本かはわからなかった。そしてやっと見つけたと思ったのに……」
そこで黒服の視線が俺の方に向けられる。
「お前が先に手にとっていたんだ!」
「だからといって貴様にやる義務はない」
「そうだそうだ」
「お前は黙ってろ!」
「……はい……」
「そこで様子を見ていると今度は調査員の『ルル』さんが現れやがった」
何が起こってるのかはわからないが、非常にマズいことが起こってるのは確かだ。
「この本を渡したからといって貴様には読めはしないだろう」
そう言いながら彼女は本をちらつかせる。
「それはそちらも同じ条件のはずだろ」
黒服は答える。
重い空気が流れた。
日はもう少しで落ちるところであり、車内を赤く染めている。
電車はもうすぐでトンネルに入るところである。
「さぁ早く本を渡せ。それとも『能力者』どうしで戦いたいのか?」
「それが望みなのか?」
電車は音をたてながトンネルの中へと入っていった。
同時に暗闇が辺りを覆う…
突如。
響き渡った金属が重なり合う音。
それは幾度も繰り返される。
何も見えない中俺はその場を動けなかった。
トンネルを抜けると……
男は肩で息をしており、手には短刀が握られていた。
彼女はさっきと同じ場所に悠然と立ち、男を見据えている。
「貴様などに『能力』を使うまでもない」
「はぁ……はぁ……さすがは調査員だな………。だが、次の駅には既に仲間を呼んでいるぞ」
「20……19……18……」
ん?彼女は何を数えてるんだ?
「その中には、そっちの局長と肩を並べる『ディル』も来ている。もう観念するんだな」
「16……15……14……」
瞬間。
パリンッ!と
彼女は一番近い窓を拳で割った。
「なんだ。何をする気だ!」
「おい貴様」
「お、俺?」
「飛ぶぞ」
「…………はい?」
「飛ぶぞ」
「何言ってんの?」
「9……8……7……」
「いや言ってる意味が……」
「何を言う。至ってシンプルだ。飛ぶぞ」
「……」
「お前らごちゃごちゃと何言ってんだ。」
「3……2……1……」
「いやまだ心のじゅんびってうぉぉぉぉ!!」
俺は彼女に無理やり電車の外へと投げ出され、本日2度目の空を楽しんだ。
最初のコメントを投稿しよう!