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一人の男が、高層ビルを眺めていた。
男は若く、見た目の年齢は二十代だと予想される。
「……そりゃ、そこは高いし眺めは最高だろうよ」
男は急に独り言を言い出した。だが、それは、誰かと会話をしているようにも見える。それが誰かは、彼以外には分からないと思う。
男は続けて独り言を言う。
「……そこにいれば楽も出来るしな。俺も普通ならそこにいただろうな」
はははっと笑っている。それは楽しくて笑っているのか、なにが面白いのかサッパリ分からない笑い方だった。表情がないせいで、誰が見ても分からない。
「……ま、俺は今の状態に不満なんかないけどな。だって、俺はそんな場所よりもっと高いところを目指してるんだぜ?」
また笑う。今度は分かりやすいくらい笑っている。楽しそうに笑っている。この笑い方が彼の本当の笑顔なんだろう。
そして、彼は高層ビルを……いや、青々とした大空に指をさして、はずかしさなどなく大声で言った。
「これからも俺たちは進むさ!
この空の下でな!」
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