願い星(1)

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        1匹のノラ犬が、食べるも のを探してクライムシティー をさまよっています。  この街にノラ犬はめずらし くありませんが、小型犬、し かも純粋のマルチーズはこの 犬1匹だけです。  飼い犬としてなら、おおい に歓迎される犬種ですが、ノ ラ犬として生きていくには適 しません。  雑種犬ばかりのノラ犬の群 れには仲間に入れてもらえ ず、1匹でエサを漁っていて も、縄張り争いにすぐ負けて しまうので、なかなか食べ物 にありつけません。  この時も、三日間なにも食 べていなかったマルチーズ は、空腹で意識が朦朧として いました。  そこへ、どこからかミルク の匂いが漂ってきました。  匂いに誘われて、フラフラ と行ってみると、道端に大き なフランスパンが落ちていま す。  マルチーズは、 「天の恵みだ!」と迷わずパ ンにカジリつきました。  その瞬間、フランスパンが 火のついたように泣き出した ので、びっくりしたマルチー ズは驚きで、朦朧としていた 意識が、シャン! と、もと に戻りました。  すると、今までフランスパ ンに見えていたのは、パンで はなく人間の赤ん坊ではあり ませんか。  マルチーズがカジッてしま ったせいで、赤ん坊の左耳は 半分欠けてしまっています。  これは大変だ! とマルチ ーズも赤ん坊と一緒になって 鳴きだしました。 “ワンワンワン!”(大変 だ! 大変だ!) “おぎゃー! おぎゃ ー!”(痛てーよー! すげ ー痛てーよー!!)  夜中にとつぜん湧き起こっ た騒音に、寝ていたマルクス じいさんは何事かと目を覚ま し、ショットガン片手に外の 様子をうかがいました。  見ると玄関先に居るのは、 小さなノラ犬と、これまた小 さな赤ん坊です。  両方とも、犯罪者と売春婦 と酔いどれしかいない様なこ の街には似つかわしくありま せん。  マルクスじいさんは辺りを 見渡しましたが、他に人影は ありません。  とりあえず、1人と1匹を 家の中へ入れてあげました。image=202091546.jpg
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