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「ヤバい!また遅刻しちゃうよ」駅から学校まで猛ダッシュする百合
「あれ?こんなとこに、わき道なんてあったっけ?もしかして これって近道じゃん?」
取りあえず、曲がってみる
「えぇ~!何?行き止まり?最悪!」
始業のチャイムが聞こえてくる…諦めて、ゆっくりと引き返す百合の前に不気味なほど古い一軒家。
「ぅわっ…何か怖い…」
お化けでも出そうなその家の前を足早に通り過ぎようとした時、目の端に手入れの行きとどいた花壇が入ってきた。
「あっ 百合…」
そこには何種類もの美しい百合が咲き乱れている
百合は自分と同じ名前のこの花があまり好きではなかった。
百合のように清楚で美しい子になるようにと父親がつけた名前だが、百合が美しいと思った事はないし、うつむきかげんに咲くところや花が終わる時、首からポトリと落ちるところが、何か惨めな感じがしてたまらない。
ひまわりやバラのほうが、よっぽど華やかで綺麗だ。
しかし、この家の花壇に咲く百合は違った…こんなに美しい百合の花を見た事がない。
強さ、優しさ、艶っぽさ、そして なによりバラにも負けない華やかさ…その妖艶な花に誘われるかのように百合は庭に入って行く。
庭に面した小さな縁側に老婆が静かに座っていた
人がいるとは思わなかったし、黙って敷地に入ってしまった罪悪感、そして老婆の姿にギョッとして心臓が飛び出しそうだった。
老婆は、その痩せて腰の曲がった小さな体に派手な花柄の振り袖を着て、恐ろしいほど深いシワに白粉を塗り込み、真っ赤な口紅をつけている。
頭には花壇からつんできたのか大輪の百合の花をさし、ただ静かに座っている。
生きている者のオーラはまったく感じられず、まるで亡霊のようだ。
怖くなった百合は慌てて学校まで、また猛ダッシュした。
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