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着替え終わった俺達は体育館へ行くために、冬の冷え切った廊下を他の生徒に混じって歩いていた。
「ねぇ、紅蓮。なんかあっちであったみたいだよ」
「は?」
蒿に指差されその方向を見ると、そこには生徒が束になって廊下の一角を占領していた。
「何があったんだ…」
「さぁ?なんかまた能力者と無能力者がいがみ合ってるみたいだけど…行ってみよう!」
蒿はそう言うと俺を置いて野次馬たちの中へ入っていった。おいおい……厄介なのはごめんなんだが。仕方なく、俺も蒿を追って野次馬の中へ潜り込んで行く。
「うっわ~アレは不味いよ…。」
蒿は顔を青くして問題の渦中を見ていた。俺ははっきり言ってこういう事には興味ないが、蒿を置いて行くわけにもいかない。
俺は問題を起こしている野次馬に囲まれた二人をみた。
片方は知らない奴だが、もう一人は知っている。ボクシング部の主将だ…。ボクシング部の主将は怪力の能力者だ。もう一人は知らない。
能力者と無能力者、この世界で最近…と言っても三十年前に能力が人に眠っていることが発見されてから、この短い間で社会ステータスとして定着し、今では能力を持たない奴らが日本連合国総人口の数パーセントにまでなり、時には障害者扱いだ。
俺達の中では蒿以外は能力を持っていない。蒿は能力者の中でも強力な能力を持っているらしいが、そのことは俺達にも話した事がない。
「無能のくせに、デカい口聞きやがって…!」
ボクシング部の主将が俺の思考を現実に引き戻させる。声の方を見ると、ボクシング部の主将がもう一方の奴に殴り掛かっていた。主将を怒らせた本人はそれを避けようとはせず、その場に立ち尽くしている。
おいおい、これはヤバいんじゃないか…。
「ぐふっ!!」
そう思った直後、突如主将の方が勢いよく地面に叩きつけられた。地面に取り押さえられる形で関節を決められている。
その上には、主将に関節技を決めた張本人……雛が乗っかっていた。雛はそのまま興奮状態の主将の首に手刀を入れ気絶させると、野次馬の歓声と共に立ち上がり俺を見た。
「紅蓮…」
「なんだ?」
雛は相変わらずその表情を変えず、ただ俺を見ている。
「なんで止めなかったんだい…?君なら直ぐにでも対処できたはずだけど…」
「俺はお前と違って風紀委員じゃない…俺が止めに入った所で問題が大きくなる可能性だってあるだろう?」
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