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十年前に突然失踪した親友と、思いがけない場所で再開した。だがそれは、感動の再開には程遠いものだった。
「さぶいなあ」
俺はぶるりと身震いをして、背中を丸めた。吐き出す息が白い。
大阪では珍しい3月の雪。鈍色の空からは、ぼとぼとと牡丹雪が落ちてくる。
今日は明日の卒業後のリハーサルをしただけで下校となった。時刻はまだ1時にもならないというのに、辺りには人気も少なく景色は薄暗く沈んでいる。
「寒いんは仕方ないやん、誠一。雪降ってんねんから」
「そんなん勇樹に言われへんでも、見たらわかるわ」
「上までチャック上げたらあったかいんとちゃうん? 前はだけてるから寒いねんで」
俺をたしなめる勇樹は、暖かそうなPコートをきっちり着込み、マフラーに手袋も装着している。完全防寒といった体だ。
「手ぇだすんが寒いやんか」
「お前なあ……」
勇樹が小さく嘆息した。そして上着のポケットに手を突っ込んだまま愚痴を言う俺を見かねたのか、ダウンのファスナーを上げてくれフードもかぶせてくれた。
「サンキュ。勇樹は優しいなぁ」
「お前がだらしないんやろ。自分のことは自分でしいや。俺はお前の彼女とちゃうんやで?」
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