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「勇樹が女やったら、絶対彼女にしてんのに。お前案外気いきくし、かわいい顔してるしな」
色白で小柄で目が大きくて、勇樹は俗に言う女顔なのだ。実際に小・中学生の頃はよく女に間違えられていた。さすがに高校に入ってからは、そんなことも無くなったが。
「………あほ、きしょいわ。なんでお前の彼女にされなあかんねん」
勇樹は憂いをふくむ表情になり、困ったように瞳を揺らした。それがなぜだかとても悲しそうに見えて、
「ごめん、冗談や」
慌てて否定したら、彼は明らかにホッとした顔で「うん」と頷いた。
ヒュウと冷たい風が吹き抜け、芳香を運んできた。
「何かいい匂いやな」
「沈丁花や、誠一。そこの家の庭に生えてる」
勇樹は後ろを振り返り、建ち並ぶ住宅の中から一軒の家を指さした。その庭先には、白い花が塊になって咲いていた。
「そうなんや。よお知ってんな」
「毎日登下校で見てるやん」
勇樹は、そんなことも知らなかったのか、という呆れと憐れみの混じった顔で俺を見た。
「花とか、俺興味ないし」
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