一章

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「うっ……宇佐美様!? 申し訳ありません、直ぐにでも追い返します」 老人に様付けする家臣の姿を見て、ただ者では無いと悟り事が静まるのを待った。 「返す必要も無かろう、折角来たんじゃから茶の一杯、老人と飲まぬか?」 「……茶ですか、宜しいですね。」 甲賀の里に居た頃に何があっても良いようにと、茶道や俳句が出来る様に教わって居た。 「では、こちらへ」 宇佐美に案内された部屋は茶室で、二人から四人が一斉に茶を楽しむ事が出来る様になっていた。 甲賀の里なら茶室にでさえからくりを作り、逃げる事が出来る仕掛けにするかその部屋全体に毒槍を仕込ませ、敵を閉じ込めたまま殺傷する。これには、外と中での連携が物を言う。 「何の目的で此所に来られたのだ?」 宇佐美の問いに一呼吸置いて、 「上杉謙信様にお目通りしたく、馳せ参じた次第に御座います」 丁寧な言葉使いで平八郎は答えた。 ならば、と宇佐美は言うと部屋を出て暫くして、一人の男と茶室に戻って来た。 「宇佐美様、そちらの方は?」 「我が主に御座る」 宇佐美定満の一言に、鳩が豆鉄砲を食らった様な表情になった。 「そなたが、俺に会いたいと言う者か?」 謙信の一言に我に戻り、頷いて返事を出した。 「お主の噂は耳にしておる。甲賀の忍で五本の指には確実に入る、屈指の者だとな。」 と言い置き、 「だが、脱走をしたのはいかなる理由だ?」 平八郎はその事について口を閉ざした、主から命を狙われるほど脅威に思われているのだ言える筈も無い。 謙信と定満は溜め息を漏らし、 「暫くは此所で逗留すると良い。その変わり、逗留する間は、客分として扱うゆえ戦にもしかと出るのだ。分かったな?」 と言って部屋から謙信は姿を消した。
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