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暫くの間は上杉家に世話になったが、今まで世話になった事の感謝を筆に残し、姿を消した。
この頃から美濃では、斉藤道三が隠居し嫡男の義龍が家督を相続する事になる。
と言うのは表書きで、未だに実権を握っていた道三は城の事を義龍に任せ、国の事を道三は考えて居たのだ。
しかし、良い策も思い付かず微罪の者を牛裂き、釜茹でにするなどして美濃国内からは不評が飛び交うようになる。
道三の下に居た明智光秀は、自分を此所まで育ててくれた道三に恩返しをする為、何度も義龍の味方になるよう言われたが断って来た。
「一鉄さん、いい加減にして下さい。私は義龍様には付かないと、再三言っているのが分かって貰えませぬか?」
「しかし、お主は土岐出身の身だ。今や土岐勢は、義龍様の味方……」
「その様な事は関係ありません、私は道三様に育てて貰ったも同じ事ですから」
そう言って、稲葉一鉄の話を聞かず部屋を後にした。
少し疲れて部屋に戻るといつもとは違った雰囲気に、神経を研ぎ澄ました。
脇差しを手に掛けた瞬間、素早く何かが天井裏から降りて来た。
「これは…… いつぞやの」
光秀は柄に掛けた手を離すと、影の者も静かに立ち上がった。
「光秀殿、懐かしいですな」
桂平八郎はそう言うとにやりと笑みを浮かべたが、光秀は何をしに来たのか分からず訝しい目で見て来た。
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