一章

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天文十年四月二十日、大雨が降ったお陰で道はぬかるみ思い通りに進まなかった。 挙句の果てには、石で足を挫いてしまった。 左右に顔を振り誰も居ない事を確認したが、用心の為に木の影に身を隠した。 (さて、どうしたものか) 村を出る前に持って来た金子も食料も底を付いてきた、何か無い物かとふと後ろを向くと青装束に身を包んだ集団が目に入った。 (此所ではまだ不味い) 敵国の土地勘も優れて居る彼らなら自国では尚更、何処に隠れ潜むかは手にとる様に分かる筈だ。 「良いか、何がなんでも見つけ出せ。これは、六角氏様の頼みであるぞ!」 「はっ!!」 何とかやり過ごしたと思ったが、傘を被った男だけは未だに離れようとはしなかった。 「いい加減、出て来たらどで御座るか?平八郎殿」 平八郎は一瞬身体を震わせた。しかし、それには応じなかった。 「お前が何の為に甲賀を捨てるのか知らぬが、秘密を誰よりも知っている以上は生かしてはおけん」 刀が鞘から抜ける音がして、逃げれないと悟った平八郎は腰に横一文字で備えた直刀『菊一』に手を掛けた。 「お互い忍びであり、一人の人間として問うが……。なぜ里を抜けようなんぞ考えた?」 その答えは主君に聞けば直ぐに分かると言ったが、納得はしなかった。 「まぁ、良い……。どのみち俺はお前を斬る為に来た訳じゃないからな」 「では何故?」 「お前は俺の弟の様な存在だ、それを消そうとする連中は俺が許さない」 「赤間……殿」 赤間信一はそう言うと、自ら山を後にした。
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