一章

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眠りから覚めると部屋に居た連中は、何処かに行ったのか部屋には平八郎の一人だけとなっていた。 「全く、平八郎と引き換えに金が手に入るって本当だろうね?」 「間違いねぇ、六角様直々の侍が来たからな。まぁ、あいつは鍵付きの部屋にまんまと入ったからよ逃げ道なんてねぇや」 「あんまりあいつを侮らないほうが、あんたの身の為だよ?」 部屋の外から聞き覚えのあ、る声が段々と近付いて来た。 (組んでおったか……) 数度世話になったからと言って長居しすぎた、何処かに逃げ道は無いものかと右に左に顔を向けるが逃げれそうな場所は無かった。 「平八郎、あんたに客だよ?」 部屋の外から問い掛けたが、全く反応が無い事に不思議に思いながら鍵を開けた。 戸を開けるとそこに居るはずの平八郎の姿は無かった。 「女将さん、逃がしたのか?」 「何冗談言ってるんだい、私がこの部屋に来ない事はあんたが良く知ってるだろ?」 「まぁそうだな、だったら……何で居ないんだ?」 綾乃は少し考えて、厠にでも行ったのでは無いかと言って綾乃はそこに残り男が厠へ向かった。 「いつまで隠れてるんだい?」 「……」 「まぁ、別にあんたを売った訳じゃ無いよ。ただ、私はこの店を守る為だったんだ、それは分かっておくれ」 「……」 「早く出て行きな、次来たら本当に命が無いよ」 綾乃の気遣いに頭を下げて、直ぐに部屋から出た。 (はぁ、何でこんな事してるのかね私は……) 店を後にした平八郎は美濃から尾張に向かう国境までやって来た、その途中大名の人間と擦れ違った。 (あれは……) 長い槍や鉄砲を数丁持った兵に警護され、馬に乗り悠々と歩いている若者は尾張の大うつけだった。 (某も何処かに士官するべきか……) そんな事を考えて居ると、後ろから気配を感じ腰の菊一に手を掛けた。 「兄者、私だ!」 その声に目を見開いて、後ろを振り向くと見慣れた女の姿があった。
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