一章

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後ろを振り向くと旭川春霞の姿があった、今度は交友人物に暗殺命令を下したと直ぐに判断で来た。 「お主が某を斬れるか?」 「私は斬りに来た訳じゃない、なぜ村を脱走なんて……」 その事かと呟いた平八郎は、その場に腰を下ろして語り始めた。 「お主を助けた時より前の話だが、某は殿の命令で敵の城へ忍び込んだ。そこの君主の首を取り、さらに翌週には幕府に潜入しろと言われてな。警備は厳しかったが、何とか成功する事が出来た。作戦成功の話をするとな、顔が青褪めて居た……」 そこまで話すと、林に目線を移した。 「お主を助けた、あの竹林に行った時。実はな主が差し向けた刺客に狙われておったのだ。任務を成功させたと言うのに、何とも哀れな話であろう?お主を連れ帰った後も度々襲われたが、その都度何とか切り抜けて来た。が、今度はお主も一人前になりつつある、良い機会だと思い脱走したのだ。これ以上、仲間を殺すのは辛い……」 今まで何人もの命を闇に屠ってきた、平八郎の心の中に初めて芽生えた感情だ。 話を全て聞いた春霞は何も言わず、肩を震わせて居た。 「力を持つ者は恐れられる、お主にはそうはなって貰いたくない。任務を失敗しても構わん、その代りに長生きしろよ」 と言って背を向けた。 「じゃぁ私も……」 「それはならん」 「兄者がいなければ、私があそこにいる意味なんて無い」 「馬鹿者、お主と某は進む道が違うのだ。さっさと里に戻るか、某を斬るか……。お主が取る道はその二つのどちらかだ」 春霞は肩を震わせながら愛刀小太刀「霧影」を手に取った。 それを見て菊一を鞘に納めたまま、柄に手を掛けた。
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