一章

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「先ずはつまみです、あとから食事が来ますのでごゆるりと……」 肴に箸を付けて地酒を飲み、「これは、うまい!」と一人で呟いた。 『兄者が作った赤飯、なかなか美味しいです。』 一瞬昔の事が頭に過ぎったが、首を横に振って直ぐに忘れた。 その日はなかなか寝付けず気が付けば、朝を迎えていた。 「旅人さん昨日はゆっくり寝れましたか?」 「まぁ。それなりにな」 「嘘は言わないでください。クマが出来てます」 昨日夕餉を持って来た女中に言われ、思わず笑ってしまった。 「世話になった、また機会があれば来る」 「お待ちしております」 甲斐を離れ再び美濃へ着いた、と言うのも金子が底をついてしまいそれを得る為に仕事を引き受けたのだ。 (命を金で買うとはな……) 仕事を頼んだのは戦国時代の表舞台からは全く資料は見つからないまたの名を『始末屋』とも言うらしいがそれが本当かどうかは定かでは無い。 美濃の金華山城(稲葉山城)に居る明智光秀の暗殺を頼まれた、理由を聞いたがこの世界で必要なのは任務の遂行と、金を受け取るだけでそれ以外の事は聞いてはいけないらしい。 (裏の世界と言うのは、何処も楽では無いな) そんな事を思いながら金華山の中腹までやって来た。 少し休息しようと思い、下の町を眺めていると足音が耳に入って来た。
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