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「おらおら,どうしたッ!?
もうキツいかッ?!」
「……はっ…はっ…全然ッ……まだまだ余裕っすからッ!」
トレーナーと,ボクシングのスパーリングをしている聖夜。
「……しゅッ…しゅッ……うらあぁぁぁーッ!!」
聖夜の右ストレートが,トレーナーの両腕のガードを打ち弾く。
「おっと,今のは一瞬焦るくらいに良いパンチだったぞッ!
今のと言うか,今日は全体的にパンチに力が乗っているな。
…まさか,お前どっかでひと暴れした訳じゃないだろうなぁッ!?」
「(…ギクッ!)
……そんな事するわけないじゃないすかぁ!
『素人相手に拳を奮ったら,即ボクシングジムを辞めさせる』
トレーナーのこの言葉をちゃんと守ってますから!」
「…なら良いがな。
なんだか何かを思い出して,パンチを出すのを楽しんでいるように見えたからな。
良いか?
お前のその拳はもう武器…いや凶器だ。
使い方を決して間違えるなよ?」
「(…何でもお見通しってワケかよ。
怖いねぇ…。)
……はい,分かってますよ。」
「三年かけて育ててきたお前の腕には俺も期待している。
今やその年でうちのジムで一番強い。
高校生のお前にはまだ無理だが,来年にはお前をうちのジムから公式戦に出そうと思っている。
くだらないチンピラのケンカなんかでその才を埋もれさせないようにな…。」
最後の忠告の時に,トレーナーの表情が一瞬曇ったのを不審に思いながらも聖夜は見逃さなかった。
「……俺,必ずプロになってみせますからッ。」
「あぁ,期待してる。
だが……自分の力を過信することはないようにな。」
「……はい。
じゃあ,失礼します。」
この日のジムでの練習が終わり,聖夜は家へと帰る。
聖夜がプロボクサーを目指すのには,彼しか知らないある理由があった。
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