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《現実世界》
聖夜は遠い目で茜色に染まる夕焼け空を見つめていた。
「………ふっ,あんなガキの頃にした約束なんて柚月がまだ覚えてるワケないのになぁ…。
…それでもやっぱプロボクサーになりたいんだな俺は…。」
自分の中に封じ込めていたはずの柚月の事が久しぶりに蘇る。
「………やめだやめだッ!!
もうアイツの事なんて思い出すのやめようッ!
…今の俺はもうあの頃の俺なんかじゃねぇんだ……。」
聖夜はいつもこうだった。
自分の中でまだひそかに疼いてる柚月への想いが蘇る度に,無理やり封じ込めて非行に走る。
悪い事をしている時だけは柚月の事を完全に忘れられた。
不器用な彼にはそのやり方しか分からなかった。
「……ふぅ,家に帰るにはまだだいぶ早いな。
いつもはゲーセンで遊び回った後におやじ狩りに行ってたからな。
早めに帰って母さんと話すのも何かアレだしな…。」
聖夜は荒れ始めてから,母親と話す事がめっきりなくなった。
小さい頃は色々と面倒見てくれる母親が好きだったが,今となっては母親に色々と干渉される事が最も鬱陶しくて仕方がなかった。
そのような理由も加えて,おやじ狩りやおやじ狩りによって得た金で夜遊びをして母親が寝静まった頃にこっそりと帰ってくるのが聖夜の日課だった。
聖夜に父はいない。
聖夜が中学二年生の時に,空手家で人一倍正義感が強かった聖夜の父は趣味の走り込みの最中の夜道で、強姦魔二人に襲われていた女の人を助けようとしてキレた強姦魔にナイフで刺されて命を落とした。
聖夜がボクシングジムに通うようになったのは,父をそんな形で亡くして間もなくの事だった。
柚月を急に失ってその一年後に,今度は父をあまりに突然に失った。
やり場のない虚しさに襲われた聖夜が,今のように変わってしまったのもある意味仕方ないのかもしれない…。
「………よし,本屋で時間でもつぶすか。」
聖夜は煮え切らない気持ちを抱えながら,起き上がって河原から本屋へと向かった。
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