「なんでも屋」

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カタミシナ王国 都市マーレイングローイン(通称:マーレン)  世界の東側に位置する大陸 カタミシナ王国。その国のとある主要都市 マーレイングローイン。その都心では太陽が姿を隠しても大層な賑を見せていた。しかしそんな中心部とは違い都の外れ、先に流行した貴族の上京によってすっかり寂れた館が並ぶ一角は不気味なほどに静寂を帯びていた。その中のある一軒、老朽化が進む屋敷の中には二人の人間の姿があった。 「お願いします!どうか!」 「はい、それで依頼金の方は?」 灯りもなく、ボロボロに崩れた外壁や屋根から月の光で照らされた薄暗い室内、ゴロツキによって荒らされたであろう散乱とした薄暗い部屋の真ん中。一人の男は両膝をつき涙を流しながら懇願し、もう一人の男はフードを深々と被り落ち着いた様子で返す。 「お金なら幾らでも用意できます!なので…!」 必死に頼みこむ男は上等な衣服を纏っているように見えるが、その衣服は土埃に塗れ、男の身体には至るところに擦り傷や殴られたアザがあった。 「依頼金は希望額、後は契約書の記入があるのですが、それも事後でいいですかね」 そう丁寧な言葉で話す小柄な男。頭からフード付きの真っ黒なマントで身体を覆い姿は確認できないが、丁寧な口調とは裏腹にその声色からは若さが感じられた。 「では明日、またこの時間にここで」 「娘を…どうか、娘を…」 残された男は縋るように地面に崩れながら呟いていた。
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