火曜日

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  コーヒーの香りが部屋に満ちていた。 『はい。亮。』 『ありがとう。』 少し熱くなったマグカップを亮手渡す。 色違いのカップ…懐かしくて擽ったい。 こうして、毎日彼にコーヒーを煎れたいと思っていた。 でも、別れの日…私はこのフローリングの床に力一杯叩きつけて割ってしまったのだ。 困った顔をした亮が黙って立って居た。 …ずっと先の話し。 それでも、ここにいる私は知っている。 後数日後に起こる事から、向かう別れの方向を…。 『どうした?ぼ~っとして。今日、家に一回帰るんだろ?』 目の前で掌を振る亮の声で意識が戻る。 『うん。でも、夕方にはまた来る。今日も泊まっていい?』 『いいけど、遅くなるかもしれないから、あんまり一緒にはいれないよ。』 すまなそうに言う亮の顔が切ない。 『うんん。疲れてるのにごめんね。』 私は、少し俯いてしまう。 『いいよ。急になんだか優しいし…なんか変な言い方だけど。…大人になったみたいで、安心出来るよ。』 『……。』 キュッと唇を噛む私の頭をグシャグシャと撫でる亮の手は優しくて熱い。 『今まで、困らせてごめん。』 『ばーか。それ承知で一緒に居るんだよ。まっ、とにかく俺は行くね。気を付けて行けよ。』 『うん。行ってらっしゃい。』 玄関で亮を見送る。 閉めた玄関から、また亮が階段を下りて行く音が聞こえる。 部屋に残った私は、亮の言葉を繰り返す。 空気の振動が舞い上げた埃に静かに光りが反射していた。
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