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下に下りると迷わず電話の下の引き出しを開け、出前のチラシを出す。
(変わってないなぁ…)
懐かしくて口元が少し笑ってしまう。
中身をあさりながら、亮に声を掛ける。
『ねぇ、何食べる?』
『愛(まな)が食べたいのでいいよ。』
『じゃあ、うどんがいい。亮は定食でいい?』
彼の答えを、心の中で唱える。
『うん。焼き肉定食』
(うん。焼き肉定食)
しっかりとハモり擽ったい気持ちになる。
やっぱりねっ、そう思い受話器を上げて注文を済ませた。
『亮ぃ。私シャワーしてくるね。』
ロフトでギターを弾く亮に声を掛けた。
『俺も行くよ。先浴びてて…』
やっぱり、変わってない。亮は亮のままだった。
心地よいギターの音が、扉を閉め少し遠退く。
コックを捻りお湯を出すとギターの音は完全に聞こえなくなってしまった。
私は、体に少し熱い湯をかける。
手で体をなぞると、少しふっくらとした自分の体を確かめる様に触れた。
全く努力をしていない私の体は、パチンとしていた。
顔は化粧をしていないので、頭からザバサバとシャワーを浴びる事も出来る。
(若いなぁ…)
一連の作業でなんとなく若さを思う。
シャンプーのボトルを押し、手で軽く泡立て髪で更に強く泡立てる。
懐かしい香りがバスルームに広がっていく。
当時、二人が愛用していたシャンプーの甘い香り。
心の隅からゆっくり満たしていくようだった。
(香り…忘れていない。)
私がゆったり泡立てたシャンプーをお湯で流していると、亮がシャワーカーテンを開けて中に入って来た。
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