ジュエリーボックス

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何か不安なことがあったなら、いってくれれば良かったのに。 こんなことになるくらいなら。 彼女のジュエリーボックスへと手を伸ばす。折り目のついた包装紙を綺麗に剥がした。 彼女はきっと1年前に僕がこのジュエリーボックスをあげた時についていた、包装紙とリボンを大事に取っていたのだろう。 大事に折り畳んでいた跡が、包装紙とリボンの至るところにあった。 その部分を僕は指でなぞる。 優しい感触が僕の皮膚へ伝わる。 甘い余韻に浸りながら僕は、目を閉じた。 そしと思い出す。 出会ったのは、去年の4月。 彼女が高校3年生の春。 灰色のブレザーに、少しだけ短いスカート。 赤い胸元のリボンが彼女の白い首や肌に映える。 彼女の務めていた映画館に僕が行ったことがきっかけだった。 街の角にある、小さな映画館。 今、流行りの映画を上映する訳ではなく、昔流行った映画や、誰も知らない様な映画ばかりを上映していた。 コンクリートで、できた無機質な建物。 中は古びていて、何処か懐かしさを感じる甘い香りがした。
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