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目の視点変える事すら、億劫だ。
今は何時なんだろう。
別れを告げられていなかったら、今頃は彼女と食事でも取っているのだろうか。
「ロマンチックだ、って言って笑うかもしれないけど・・・・・・私が望むのはそれだけ」
ふと、付き合う前に彼女が、囁く様に言ったあの言葉を思い出した。
薄暗い照明、微かに流れるクラシック。
「君は何故、あそこでバイトを?」
カチカチと、陶器のお皿と、フォークが当たり合う音や、笑い声が響く。
僕はサヨリのカルパッチョを口に含むと、彼女が次に発する言葉を待った。
カルパッチョは、酸味が効いていて、水気のあるレタスと、身の柔らかいサヨリとの相性が良いのか、とても美味しかった。
「私・・・・・・初めてあそこの映画館で映画を見たとき、凄くその映画を好きになったんです」
「なんていう映画?」
「クラシカルハニーっていう、もう何十年も前に作られた映画なんですけど」
「どんな内容?」
僕がジントニックを口に含みながら、そう訪ねると彼女は途切れ途切れに内容を説明し始めた。
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