郵便受けから始まる

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その日の郵便受けには、珍しく手紙が来ていた。特に友人が少ない訳でもないけれど、手紙なんて寄越す筆まめな友人は記憶に無い。 そもそも、電子機器の発達したこの時代に手紙なんて、酔狂もいいところだ。まぁ化粧品やら何やらの勧誘ならばまだしも。 その葉書の表には差出人の名前は無かった。書いてあるのは、俺の実家の住所。二年前に田舎から都会へと渡って来た訳だから、それ以前の知人となる訳だ。 手掛かりは裏の文面、か。筆跡鑑定なんて特技は無い。半ば差出人の特定を諦めて葉書を裏返したが、案外簡単に差出人が分かった。 『こんにちは、ゆーさん』 坂上 祐。俺の名前の『ゆう』を伸ばした愛称を使うのは、過去に一人しか居なかった。 榎本 加奈子。 生まれてから18歳までを幼馴染みで過ごした、隣人。過疎化が進んでいた為に、小中高と12年間を同じ教室で過ごしてきた。それなりに仲は良かった訳だが、何で今更手紙なんか。 考えても答えは出るはずも無く、俺は文面を読み進める事にした。
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