郵便受けから始まる

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『突然手紙を送る事をお許し下さい。』 幼馴染みに送る手紙にしては堅実な書き出し。それが榎本加奈子という人間なのだ。物事は始めが大事らしく、どうしてもそこは譲らないのだ。馬鹿丁寧過ぎて、中々皆に打ち解けれずに俺の背中にくっついていた。 『疲れたので、普通に書きます。』 物臭なのも彼女の性格。交換日記を持ち掛けられたこともあったが、日に日に短くなってゆく日記に苦笑したものだ。結局、加奈子がノートを無くしてお終いになったんだっけ。 『小学校の遠足を覚えていますか?5年生の時のです』 忘れる筈が無い。山へ遠足に行った11歳の春。猪に追いかけられた加奈子を助けようとして、俺は右腕を複雑骨折。暫く入院を余儀なくされた。その時の恐怖といったら、今も猪を見たら目眩がする程で。 『わざわざ猪と私に飛び込んで来たゆーさんは、本当にお間抜けさんでしたね。』 この野郎。誰の所為だと思ってるんだ。泣きながら逃げ回るお前の変わりに、俺がターゲットになってやったのに。
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