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「わははははーーーっ花火だ!!花火に行くぞ!!!猿ッッ」
ばぁんと大きな音を立て、探偵にして神、豪快奔放、容姿端麗、被害甚大、何が起こるかわからない。
まさに天災、榎木津礼二郎が現れた。
「・・・榎さん・・・」
鬱々とした表情の関口が、開け放たれた障子戸を見、くぐもった声で呟く。
相変わらず何を言っているか良く判らない声だ。
敷きっぱなしの床を見るから、何をするでもなくぼう、としていたのだろう。
髭が濃く、薄汚れた風体のその男は関口。
もう三十路にもなるというのに頭には寝癖がついていて、幼く映る。
「わははっ猿だ!!猿がいるぞ!!神がじきじきに顔を赤く塗ってあげよう」
それが怯える小動物のような印象を与え、被虐心にかられるのだろうか。
躁病の毛がある榎木津は鬱病の関口に何かと絡みたがる。
「・・・やめてくださいよ・・・何の・・・」
もごもごとしていてよく聞き取れないが、どうやら何のようですか、と続けたいらしい。
「おお!猿の癖に喋るとは、えらいぞ!猿!!ご褒美に花火に行こう」
嫌ですよという関口の声を聞いているのかいないのか。
力に任せ、半ば関口を担ぐようにしてずるずると引っ張ってゆく。
「じ、自分であるけますよ・・・」
歌なぞを口ずさみ、機嫌の良いらしい榎木津の様子に、抵抗しても無駄だと悟った関口は、暴れもせずに大人しくひかれて行くのだった。
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