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いつもはせかせか歩いている僕も、墓場の穏やかな雰囲気があまりに心地よくて、ゆっくりと、そして、本当に歩いている実感がないくらいにゆったりと歩いていた。
すると向こうから見覚えのある老夫婦が歩いてきた。
「…。」
父の両親、すなわち僕の祖父母だ。
僕は少し動悸を感じる。
だけど、ここに来れば再会もあるだろうと予想していたし、おたおたしても仕方がない。
だから僕は、精一杯笑みを浮かべて手を差し出し、「お久しぶりです。」と声をかけた。
しかし、老夫婦は何事もなかったかのように僕とすれ違う。
そして、そのまま通りすぎて行った。
「…。」
思わず振り返ったけれど、老夫婦はそのまま公園の中を突き進んで行く。
僕ってわからなかった?
そうかもしれない。
前に会った時、僕は小学生だった。
仕方がないな、と公園の出入り口までとぼとぼと歩く。
管理人が声をかけてきた。
「ああ、さっきブラッキン夫妻とすれ違わなかったかい?」
「…。」
「さっきここで、”ヴァイオリンを担いだ孫が来てるよ。”って俺が言ったら、”そうかい。”って言ってたし、感動の再会だったろう!」
「…。」
僕はとりあえずお愛想笑いだけはして、そのまま足早に、駐車場に待たせているタクシーに向かった。
感動どころか無視された。
祖父母は僕だってわかっていながら無視をしたんだ。
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