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狭いミキシング室にむさくるしい男たちが集まっていて、その中に、僕とルドは入れてもらった。
スピーカーから美しい音色が聞こえる。
駅の雑踏の中に聞こえるヴァイオリン。
手持ちのポータルデッキで慌てて撮ったのだろう。
録音状態は悪く、雑音が多いけど、それでも音楽は十分に聴き取れる。
艶っぽい響きなのにどこか寂しげな僕の音。
残響もへったくれもない中で、それでも『カプリース』が神々しいまでの作品力を誇る。
ルドは目を閉じて身じろぎもせずに聴いている。
ルドだけではない。
G社の人達もじっと聴いている。
僕も聴いてはいるけど、練習を前もってしておいたわけではないので、やはり思ったより表現しきれていない場所もある。
そういう所にくると、心臓がドキッとしたり顔がこわばったりする。
そして、少しテンポが崩れたところで思わずルドの顔を見上げたところ、彼も僕を見ていて目が合った。
おまえだろっ!
彼の心の声が聞こえたような気がした。
彼が僕の演奏をわからないはずがない。
演奏が全て終わって音源が消されると、皆は口々に「これ、そのままディスクにできるんじゃないの?」「ああ、誰が弾いてるんだ。賞金でもかければ出てくるんじゃないか?惜しい~!」とか叫んでいる。
賞金で犯人探しなんてやめてくれ。
僕がスタスタと録音スタジオに向かう後ろから、「ジムも次はカプリースなんてどうだ?」とスタッフから声がかかったけど、「また今度。」と受け流しておいた。
そして小声で「あんなので録音だなんて。」とつぶやくと、背後から「そうだな。」と声がした。
ルドが追いかけてきたのだ。
「まだまだ上手くなりそうだ。」
彼は笑うけど、女遊びの件と、ストリート演奏をした事と二重に怒られる原因を作った僕は、逃げるようにちょっと早足で歩きだす。
「でもなんで『カプリース』なんだ?ジムだと曲芸弾きもできるだろうに。」
そう、僕は高校時代から曲芸弾きとかして小遣い稼ぎをしていた経歴がある。
でも昨日は別に金が欲しかったわけじゃない。
ただユウコがテレビでカプリースを弾いていたから。
それが世界中の聴衆を魅了しているように感じたから。
「…。」
でもそんな事は彼には言えずに、僕は無言でスタジオに飛び込んだ。
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