4.戦い済んで日が暮れて

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「テイクワン!」 スタジオにスタッフの声が響く。 『無窮動』が始まり、パガニーニの音が絶え間無く連なる。 それこそ、指の動きの速さを自慢しようが、ミスの無さを自慢しようが、パガニーニも誰も文句は言わないだろう。 でも、僕の『無窮動』は軽やかで絵画的だ。 音の羅列は、時には女の肌を転がる水滴のようだったり、また、あっちへ行ったりこっちへ来たりする女のきまぐれだったりする。 そして、それを眺めて楽しむ僕がいる。 弾きながら自然と笑みがこぼれてくる。 とてもお茶目でハッピーなパガニーニ。 一通り弾き終わって息をつくと、良い演奏ができた充足感でいっぱいになった。 ウィリーが言った。 「伝統よりも上質だね。」 一瞬、彼がどういうつもりで言ったのかわからずに、不安な顔をした僕に彼はもう一度言った。 「誉めたのだよ。」 彼は無表情だったけど、決して嫌な感じではなかった。 僕は素直な気持ちで会釈した。 そしてスピーカーからはミラーさんの弾んだ声が飛んでくる。 「こんなに生き生きした『無窮動』、初めて聞いたよ!」 僕は嬉しくて、ほころぶ顔を抑えきれず、ガッツポーズを決めた。
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