第三章

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この頃の母は以前より増して、おかしくなっていった。 父の前では、いい母いい妻でいる事を徹底していた母が、父がいても私達に手をあげるようになった。 そして、母から父に離婚の話をきりだした。 何日かその話し合いは続いていた。 私は両親の離婚については心から賛成していた。 救われるかもしれない…そう思ったから。 兄も同じ気持だっただろう。 離婚の事実だとか、そんな事より、何よりも私が一番気になっていたのは、どちらに自分が引き取られるのか…ただそれだけだった。 そして……… 私は母に引き取られて、兄は父に引き取られていった。 私は母と一生一緒に過ごさなければならないのか…私はこれからもずっと耐えなければならないのか… 私はこれから迎える人生をすでに諦めるようになっていった。 母と私は、母の母、お祖母さんの家で住む事になった。 お祖父さんは何年か前に亡くなっており、お祖母さん一人だった。 住みだしてから間も無く、母は朝から晩まで家にいる事はなかった。 顔を見ないまま朝を迎える事もよくあった。 私は幸せだった。 優しくしてくれるお祖母さんと美味しいご飯が毎日そこにはあったから。 母も以前の母ではなく、私に手をあげたり、罵声を浴びせたりもしなくなった。 会話もなかったが、時々笑顔を見せる事があった。 ある暑い夏の日、近所で花火大会がある事を知った私は嬉しくてソワソワしていた。 私はお祖母さんと、珍しく家にいた母を誘い、花火大会へ向かった。 けれどお祖母さんは、近所の人達の集まりの方へ私達を残して行ってしまった。 私と母の関係を本来の母と娘に戻ってほしいと強く願っての行動だったらしい。 相変わらず会話のないまま、何処に向かうでもなく、ひたすら歩く母と少し距離をおいて、ついていった。 どのくらいの時間歩いたのだろうか… もう辺りは真っ暗になっていた。 知らない土地…すごく怖い… 田舎なので人気もなく、街灯も少ない。 母が急に私の方へ振り返り、「ちょっとトイレに行ってくるから、そこで待ってなさい。」 と言い残し私をおいて、来た道を戻って行った。 トイレなど今まで歩いて来た道にはなかった。 けれど私は母の言った事を守っていた。 でもすごく不安…怖い…お母さん必ず戻って来てね… 私は泣き疲れて、その場でしゃがみこみ、気付いたら眠ってしまった。
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