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ザー……
雨が降る。桟橋から流れる川を見た。私は映らない。酷く雨が降る。にごる水。赤い傘らしき色が、ゆらりと見えた。
「……くうん」
はっとして、あしもとを見た。
「くうん」
子犬がいた。びしょぬれの子犬だ。
「なにあんた」
赤い傘をくるくるまわして、子犬と向き合う。
「くうん、くうん」
黒ずんだ鼻、つぶらな瞳、ぽてっとした足。
「短い足」
侮蔑的な目で見おろす。
「……チビ、汚い犬」
突然の突風。赤い傘がくるくる飛んでいく。
ザァァァ……
痛い雨。
「……くうん」
しゃがんで、犬を抱き締めた。
「なんで逃げないの」
ぺたぺた。服に足あとがつく。べとべと。泥がつく。
「なんであったかいの」
犬が、ほおをなめた。
「汚いわ、やめてよ」
自然と、涙が流れた。
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