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ぶわあっ、セットした髪があっという間に崩れる。
――さむい。
冷たい冷たい、風。赤くなった鼻を、首に巻いたマフラーにうずめる。
「らっき」
かすかな声は、白い空気になり消えていく。
「らっきいっ」
寒い鼻をマフラーから出し、大きな声を出す。澄んだ空気を、私の息が通り抜ける。
「……らっきー」
閑散とした住宅街。愛らしい息づかいは聞こえてこない。ダウンの裾をぎゅっと握りしめた。手にした赤いリードが寂しがっている気がした。
「……ハッハ、」
ばっと後ろを振り向く。
「ハッハハッハ」
「らっき……」
ボサボサの全身、黒い鼻。私は走り出す。それを抱きしめたくて。しかし……不敵な笑みを浮かべて、彼も走り出した。
「この……クソ犬!」
私はリードを振り回し、逃亡中の犬をお縄にするため全力を出した。
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