1.SIRENT Rain

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扉を閉め、歩き出そうとした瞬間、不意に声をかけられた。 「あ、リョウさん上がりッスか?」 振り向くとバイトのタカシが立っていた。 「おう、6時までのところを2時間も伝票整理してたんだ、充分だろ?」 「ま、確かに。でも本当は走りに行きたくてウズウズしてたんじゃないんですか?」 人懐っこい笑顔でからかうように言ってきたので、内心走る気が無いながらも 「バレてたかっ」と言おうとした時… 「あっ、でも雨降ってましたよ?強くはないですけど、なんかシトシト降ってて…。まあ、梅雨時だから仕方ないッスかね~」 タカシの言葉を聞いた瞬間、無意識に「ああ、そのせいか…」と言っていたようだった。 「え?どうかしたんですか?」 そう言われて初めて自分の思考が声に出ていたと気が付く。 「あ、ああ、大した事じゃないんだが…なんか今日は気分が乗らなくてさ。何でかと思ったら雨が降っていたからかと思ってな」 「あ~、確かに雨の日は危ないし、それに梅雨の雨ってなんか気が滅入っちゃいますよね」 「そう、なんかイマイチなんだわ。だから今日は久しぶりに酒でも買って呑んで寝るわ。」 「了解ッス、その方が良さそうですね。じゃあ、新作のエロDVDあったらメール入れてくださいね。じゃ、お疲れさまッス!」 「は?誰もDVD借りに行くなんて…」 とリョウが言い返してる時にはタカシはもう事務所に入りドアを閉めていた。 (ったく、エロDVDなんて見る気分じゃねっての。なんせ今日は…SIRENT Rainが降る夜だからな…) 事務所前の通路の突き当たりにある窓から、静かに降り続ける雨の様子を見ながらそう呟いていた。
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